裁断士・縫製士にインタビューを行いました。
裁断士:裁断士としての経験が50年を超える大ベテラン。ダジャレが好き。
縫製士:縫製経験35年。完璧な仕事ぶりは惚れ惚れします。
≪裁断・打ち合わせ≫
今回は特に使用する素材が多く、衣装のどの箇所にどの生地を使用するのか、細かく打ち合わせをします。
ドール衣装は一つ一つのパターンのパーツが非常に細かく、神経を使います。
Q.裁断の時に苦労する所、気を遣う所はどこですか?
A.強いて言えば、小さいパーツを大きな裁断ばさみで切ることでしょうか。
でも、「ドールのパーツなんだ」と心構えをして取り組むようにしていますし、いつもポーチなどの小さいパーツを沢山裁断してきたので、なんてことありません!
[caption id="attachment_1618" align="alignnone" width="973"] 下から順に、ノミ、スチールメーター尺、曲尺、目打ち、文鎮[/caption]
*解説 裁断道具
・ノミ:急カーブの裁断、ノッチ入れの時に使用。※ノッチは後述
・スチールメーター尺:目盛が擦り減らず、定規自体の寸法のくるいが無いため、良いとされている。
・曲尺:後述
・目打ち:縫い目の先端など「ポイント」の印付けが必要な時に使用する。
・文鎮:型紙と布がずれないように「おもし」にします。
[caption id="attachment_1619" align="alignnone" width="973"] 裁断ばさみは裁断士の命。重たいので急カーブの裁断は手首に負担がかかります。腱鞘炎必死の重さ![/caption]
Q.地の目を通しにくい「薄く、柔らかい素材」について苦労する所、気を遣う所はどこですか?
A.今までに様々な素材の縫製を経験してきましたが、振り返ってみると、特に異素材の組み合わせや沢山切り替えがあるデザインの裁断経験は積み重ねだと思います。
特に薄物は周りがみんなイヤがって手を出さずにいたところを率先してこなすようにしていたので、「慣れた」という感じです。人が避けるモノほど「やりがい」を感じていました。
[caption id="attachment_1617" align="alignnone" width="973"] ロールカッターや包丁など、裁断する生地やパーツの大きさに合わせた道具で裁断します[/caption]
*解説
・地の目
織物は、経糸(たていと)と緯糸(よこいと)を組み合わせて「織り」をかけて出来上がります。「糸」だったものを「布」にすることになります。
「地の目を通す」という言い方をしますが、服が出来上がるまでの工程の中で、一番最初に「地の目」が関わってくるのが裁断です。
基本は「地の目=たて糸」です。(あえて、よこ糸を通す場合もありますし、色々な場合があります)
裁断時にこの「地の目」がずれてしまうと、縫い上がったモノに影響が出ます。たとえば「地の目」の通り方が左右で違うフレアスカートを縫い上げると、「左右でフレアの出方が違うスカート」が出来上がってしまいます。
たかが「たて糸」と思うかもしれませんが、これが製品の「見た目」にかなりの影響を与えてしまうので、服飾の世界では「地の目を通して裁断する」のは常識です。
[caption id="attachment_1623" align="alignnone" width="973"] 左:「字の目」が通っていない裁断 右:「字の目」が通っている裁断[/caption]
布に入っている線は「糸」をなぞっています。タテとヨコが直角になっていないと歪みが出ます。
Q.今回の「大賞」ドールの裁断についての感想を教えて下さい。
A.とにかく「縫いやすいように」と気を付けて裁断しました。縫いのことが分かるから、余計に気になります。カタチはパターンで成り立つわけだからもらったパターンを正確に、「小さい服」だからこそミリ単位で裁断しないと縫った後の「ひずみ」が大きくなります。今回は曲尺(カネジャク)を片手に寸法確認しながらの裁断でしたし、ノッチも細かかった。そして縫う人が分かりやすいよう気を配りました。
大賞作品の画を見た時に、「ゴージャス、高級感」が漂うドレスになるだろうな・・・とイメージ出来ました。ボリュームもあり、全体のバランスも非常に良かったので、完成が楽しみです!
*解説
・曲尺(=差金、かねざし)
金属(ステンレス、アルミ、スチールなど)でできた直角に曲がった形の定規。
もともとは大工さんが木材の直径を簡単に測ることが出来るので多用していたといわれる。
金属製の定規は、使っているうちに縮んだり歪んだりすることもなく、目盛りもすり減って読めなくなることも少ないといわれる。
更に曲尺1本で正確に「直角」をとることも出来るので、「正確な長方形」の確認をするときには抜群の効果を発揮する。
・ノッチ
ノッチ=「きざみ」のこと。
服は布を縫い合わせてカタチにしていきますが、「ココとココが合わせるところ」と(主に、縫製士さんに)知らせるための「しるし」です。
布にペンなどで書くわけにはいかないので、通常ははさみで少しだけ「切込み」を入れるか、ノミで三角形に「きざみ」を入れておきます。これを目印にして縫製を進めていくことになります。
「欲しいところにノッチが入っているかどうか」で縫いやすさ(裁断士やパタンナーによって大きく変わってくるところです)にダイレクトにかかわってきます。
≪ 縫製・打ち合わせ ≫
最初にトワルを見たとき、すごいボリューム!と思いました。
ギャザーフリルが何段もつくので、ギャザーとの戦いです(笑)
≪ パニエ ≫
パニエはオーガンジーで出来ています。オーガンジーにギャザーを寄せたフリルを2段付けし、ふくらみを出します。
オーガンジーはとてもほつれ易く、ギャザーを寄せたそばからほつれてきて、その糸が押さえ金に絡まるので、とても扱いづらい素材です。
絡まった糸を切りながら縫い進める作業になり、時間がかかります。
しかし、出来上がった時には透き通って程良いボリュームが出て、綺麗です。
[caption id="attachment_1629" align="alignnone" width="973"] オーバースカートをギャザーを固定するために整えている所[/caption]
≪スカート部分≫
裾の一番長いフリルが、4.7m以上の生地を1.8mくらいまでギャザーで縮めます。
ギャザー押さえという押さえ金を使って、まずギャザーを寄せていくのですが、素材によって寄り方が違うので、それぞれ様子を見ながらになります。
[caption id="attachment_1634" align="alignnone" width="973"] ギャザースカート、ギャザー固定[/caption]
ストライプの布は、ギャザー押さえで丁度良いくらいのギャザー分量になり、比較的付け易かったですが、
レース地は薄く、押さえでは寄り過ぎてしまうので、上糸をひく方法で付けました。
ギャザーを縫う時は、気を付けないと下側が噛んでしまったり、タックになってしまったりするので、目打ちを使って、少しずつ整えながら縫い進めるという作業になります。
単純な作業ですが、根気が要ります。
ドールサイズなのでまだ良かったですが、本物だったら物凄い距離ですね。
[caption id="attachment_1633" align="alignnone" width="973"] オーバースカートの斜め切替のフリル。フリルの影に隠れるレースのたたきつけ。[/caption]
[caption id="attachment_1630" align="alignnone" width="973"] オーバースカートのフリル仕上げ[/caption]
≪ 身頃部分 ≫
今回は特製のNO.Sボディに合わせるということで、バストラインがとても急カーブでした。
小さいので縫いにくく、少々苦労しました。
≪ まとめ ≫
スカート部分と身頃を合体させ、後ろ中心にコンシールファスナーを付け、表裏を縫い合わせて出来上がりです。
[caption id="attachment_1631" align="alignnone" width="973"] 最終まとめ作業。ミシンが入らなかったところを一針一針丁寧に仕上げる。[/caption]
NO.S PROJECTはドール衣装でも手を抜きません。裏地付きの本格仕様です!
この様に、パタンナーさんによって計算され尽くしたパターンの細かいパーツを、裁断士さんが正確に裁断し、縫製士が手順を追って縫い上げ、本体が完成します。
後は、デコレーション担当にバトンタッチ。
小物や装飾で、どれだけ豪華になるのか楽しみです。
挑戦状:『NO.S PROJECTへの挑戦状』大賞・特別賞発表!
前工程:「NO.S PROJECTへの挑戦状」挑戦中!~パターン編~
次工程:「NO.S PROJECTへの挑戦状」挑戦中!~装飾・仕上げ編~
裁断士:裁断士としての経験が50年を超える大ベテラン。ダジャレが好き。
縫製士:縫製経験35年。完璧な仕事ぶりは惚れ惚れします。
≪裁断・打ち合わせ≫
今回は特に使用する素材が多く、衣装のどの箇所にどの生地を使用するのか、細かく打ち合わせをします。
ドール衣装は一つ一つのパターンのパーツが非常に細かく、神経を使います。
Q.裁断の時に苦労する所、気を遣う所はどこですか?
A.強いて言えば、小さいパーツを大きな裁断ばさみで切ることでしょうか。
でも、「ドールのパーツなんだ」と心構えをして取り組むようにしていますし、いつもポーチなどの小さいパーツを沢山裁断してきたので、なんてことありません!
[caption id="attachment_1618" align="alignnone" width="973"] 下から順に、ノミ、スチールメーター尺、曲尺、目打ち、文鎮[/caption]
*解説 裁断道具
・ノミ:急カーブの裁断、ノッチ入れの時に使用。※ノッチは後述
・スチールメーター尺:目盛が擦り減らず、定規自体の寸法のくるいが無いため、良いとされている。
・曲尺:後述
・目打ち:縫い目の先端など「ポイント」の印付けが必要な時に使用する。
・文鎮:型紙と布がずれないように「おもし」にします。
[caption id="attachment_1619" align="alignnone" width="973"] 裁断ばさみは裁断士の命。重たいので急カーブの裁断は手首に負担がかかります。腱鞘炎必死の重さ![/caption]
Q.地の目を通しにくい「薄く、柔らかい素材」について苦労する所、気を遣う所はどこですか?
A.今までに様々な素材の縫製を経験してきましたが、振り返ってみると、特に異素材の組み合わせや沢山切り替えがあるデザインの裁断経験は積み重ねだと思います。
特に薄物は周りがみんなイヤがって手を出さずにいたところを率先してこなすようにしていたので、「慣れた」という感じです。人が避けるモノほど「やりがい」を感じていました。
[caption id="attachment_1617" align="alignnone" width="973"] ロールカッターや包丁など、裁断する生地やパーツの大きさに合わせた道具で裁断します[/caption]
*解説
・地の目
織物は、経糸(たていと)と緯糸(よこいと)を組み合わせて「織り」をかけて出来上がります。「糸」だったものを「布」にすることになります。
「地の目を通す」という言い方をしますが、服が出来上がるまでの工程の中で、一番最初に「地の目」が関わってくるのが裁断です。
基本は「地の目=たて糸」です。(あえて、よこ糸を通す場合もありますし、色々な場合があります)
裁断時にこの「地の目」がずれてしまうと、縫い上がったモノに影響が出ます。たとえば「地の目」の通り方が左右で違うフレアスカートを縫い上げると、「左右でフレアの出方が違うスカート」が出来上がってしまいます。
たかが「たて糸」と思うかもしれませんが、これが製品の「見た目」にかなりの影響を与えてしまうので、服飾の世界では「地の目を通して裁断する」のは常識です。
[caption id="attachment_1623" align="alignnone" width="973"] 左:「字の目」が通っていない裁断 右:「字の目」が通っている裁断[/caption]
布に入っている線は「糸」をなぞっています。タテとヨコが直角になっていないと歪みが出ます。
Q.今回の「大賞」ドールの裁断についての感想を教えて下さい。
A.とにかく「縫いやすいように」と気を付けて裁断しました。縫いのことが分かるから、余計に気になります。カタチはパターンで成り立つわけだからもらったパターンを正確に、「小さい服」だからこそミリ単位で裁断しないと縫った後の「ひずみ」が大きくなります。今回は曲尺(カネジャク)を片手に寸法確認しながらの裁断でしたし、ノッチも細かかった。そして縫う人が分かりやすいよう気を配りました。
大賞作品の画を見た時に、「ゴージャス、高級感」が漂うドレスになるだろうな・・・とイメージ出来ました。ボリュームもあり、全体のバランスも非常に良かったので、完成が楽しみです!
*解説
・曲尺(=差金、かねざし)
金属(ステンレス、アルミ、スチールなど)でできた直角に曲がった形の定規。
もともとは大工さんが木材の直径を簡単に測ることが出来るので多用していたといわれる。
金属製の定規は、使っているうちに縮んだり歪んだりすることもなく、目盛りもすり減って読めなくなることも少ないといわれる。
更に曲尺1本で正確に「直角」をとることも出来るので、「正確な長方形」の確認をするときには抜群の効果を発揮する。
・ノッチ
ノッチ=「きざみ」のこと。
服は布を縫い合わせてカタチにしていきますが、「ココとココが合わせるところ」と(主に、縫製士さんに)知らせるための「しるし」です。
布にペンなどで書くわけにはいかないので、通常ははさみで少しだけ「切込み」を入れるか、ノミで三角形に「きざみ」を入れておきます。これを目印にして縫製を進めていくことになります。
「欲しいところにノッチが入っているかどうか」で縫いやすさ(裁断士やパタンナーによって大きく変わってくるところです)にダイレクトにかかわってきます。
≪ 縫製・打ち合わせ ≫
最初にトワルを見たとき、すごいボリューム!と思いました。
ギャザーフリルが何段もつくので、ギャザーとの戦いです(笑)
≪ パニエ ≫
パニエはオーガンジーで出来ています。オーガンジーにギャザーを寄せたフリルを2段付けし、ふくらみを出します。
オーガンジーはとてもほつれ易く、ギャザーを寄せたそばからほつれてきて、その糸が押さえ金に絡まるので、とても扱いづらい素材です。
絡まった糸を切りながら縫い進める作業になり、時間がかかります。
しかし、出来上がった時には透き通って程良いボリュームが出て、綺麗です。
[caption id="attachment_1629" align="alignnone" width="973"] オーバースカートをギャザーを固定するために整えている所[/caption]
≪スカート部分≫
裾の一番長いフリルが、4.7m以上の生地を1.8mくらいまでギャザーで縮めます。
ギャザー押さえという押さえ金を使って、まずギャザーを寄せていくのですが、素材によって寄り方が違うので、それぞれ様子を見ながらになります。
[caption id="attachment_1634" align="alignnone" width="973"] ギャザースカート、ギャザー固定[/caption]
ストライプの布は、ギャザー押さえで丁度良いくらいのギャザー分量になり、比較的付け易かったですが、
レース地は薄く、押さえでは寄り過ぎてしまうので、上糸をひく方法で付けました。
ギャザーを縫う時は、気を付けないと下側が噛んでしまったり、タックになってしまったりするので、目打ちを使って、少しずつ整えながら縫い進めるという作業になります。
単純な作業ですが、根気が要ります。
ドールサイズなのでまだ良かったですが、本物だったら物凄い距離ですね。
[caption id="attachment_1633" align="alignnone" width="973"] オーバースカートの斜め切替のフリル。フリルの影に隠れるレースのたたきつけ。[/caption]
[caption id="attachment_1630" align="alignnone" width="973"] オーバースカートのフリル仕上げ[/caption]
≪ 身頃部分 ≫
今回は特製のNO.Sボディに合わせるということで、バストラインがとても急カーブでした。
小さいので縫いにくく、少々苦労しました。
≪ まとめ ≫
スカート部分と身頃を合体させ、後ろ中心にコンシールファスナーを付け、表裏を縫い合わせて出来上がりです。
[caption id="attachment_1631" align="alignnone" width="973"] 最終まとめ作業。ミシンが入らなかったところを一針一針丁寧に仕上げる。[/caption]
NO.S PROJECTはドール衣装でも手を抜きません。裏地付きの本格仕様です!
この様に、パタンナーさんによって計算され尽くしたパターンの細かいパーツを、裁断士さんが正確に裁断し、縫製士が手順を追って縫い上げ、本体が完成します。
後は、デコレーション担当にバトンタッチ。
小物や装飾で、どれだけ豪華になるのか楽しみです。
挑戦状:『NO.S PROJECTへの挑戦状』大賞・特別賞発表!
前工程:「NO.S PROJECTへの挑戦状」挑戦中!~パターン編~
次工程:「NO.S PROJECTへの挑戦状」挑戦中!~装飾・仕上げ編~
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